ブラジルサントスのすばらしき魅力と罠

「無人島にひとつだけ何かを持っていくなら?」というのは永遠のテーマですが、「無人島にひとつだけコーヒー豆を持っていくなら?」と聞かれたら僕は

ブラジルサントス

が暫定1位です。


暫定といってますが、ずいぶんと長い間1位なので、もうこのまま変わらないかもしれません。

今回はこの豆についてと、サントスのコーヒーを飲むにあたって注意している点についてです。




どんな豆か?


ブラジルサントスはどんな豆かと聞くと

・苦みと酸味のバランスのとれた味
・やや苦みの強い味



だいたいこんな返事が来ることが多いです。コーヒーの本にもそのように書いています。「中庸(かたよりがない)」と表現されることもあります。中庸なんて言葉を聞くのはサントスか孔子の話ぐらいですね。

名前の由来はブラジルのサントス港で、ここからコーヒー豆が出荷されていたことからきています。


僕はこの豆のコーヒーを飲んだ時の、ちょっと甘味を感じる瞬間がとても好きで、喫茶店やカフェをめぐっている目的のひとつといっていいくらいです。なかなか幸せを感じるぐらい好きなものってないですが、これはそんなもののひとつです。

しかしこれで「コーヒーはサントスだよ」とか、したり顔でいたら、つぎのようなことを知りました。


この罠、まるで引っかけ問題?


ブラジルサントスは一般的には先ほど言った通りの特徴なのですが、お店によってかなり味が変わります。あちこちの喫茶店やカフェに行くと、次のような表現をされるのを聞くこともあります。

・強めの苦みとコク、酸味はあまりない
・苦みと酸味はあるが、甘味はない
・甘味もあります
・酸味がかなり強い



ぜんぶバラバラ。嘘つき村のクイズみたいです。2番目と3番目なんてどっちかウソじゃないとおかしいですもの。

でもこれらはみんな本当で、実際にこういった味のものも飲んだことがあります。


まあお店によって味に違いがあるのは、なにもこの豆にかぎった話ではないのですが、どうもブラジルサントスはそれが極端になるようで、「注文まちがえたかな?」というぐらい違うものが出てきます。

ここでのバランス・中庸とは「どれも平均点」というより「どんな味にだってなれる」といった印象があります。サッカーでいうと「万能型の中盤選手」といったところでしょうか。サッカーにぜんぜん詳しくないのにブラジルだからって無理矢理たとえていますが。


あとたまに「ブラジルサントスNo.2」といったように、番号が続けられて書かれていることがありますが、これは等級をあらわしています。No.2からNo.8までで、混入物の少なさなどで決められるのですが、「まったく混入物のない豆はありえない」ということでNo.1は存在しません。

つまり「No.2が一番いい」ということになって、言葉だけだとまるで「ジョジョの奇妙な冒険」に出てくるホルホースの人生哲学みたいになっています。これもまぎらわしい話ですが、こういうのは生産者の哲学のようなものを感じさせていいですね。


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なんでお店によって味が違うのか


大きな原因となるのはおそらく焙煎の違いです。

細かく言えば淹れ方や農園の違いにもなるのでしょうけれど、農園なんて話をしだすと複雑すぎてわけが分からなくなるので、一番特徴が出やすい焙煎について知っておけば、ある程度わかりやすくなります。


焙煎とは何か? とかマジメに書き出すとこれも長くなって思いっきり話がそれるので、ごく簡単に言いますとコーヒー豆ができるまでの工程のひとつで、

浅煎り・・・酸味がつよくなる
深煎り・・・苦味がつよくなる
中煎り・・・その間!

です。


ブラジルサントスは中煎りか深煎りにされることが多いので、最初に言ったとおり「苦味と酸味のバランス」「やや苦味が強い」となりますが、たまに浅煎りの酸味の強いコーヒーで出すお店もあったりして、やはり「嘘つき村状態」になって、わけがわからなくなってきます。


まあ、それだけブラジルサントスは多様な味のある豆ということになり、素晴らしいね! ということなのでしょうけれど、実際はちょっと困ることもあります。


どんなコーヒーが出てくるか分かりにくい


僕が無人島に持っていきたいコーヒー豆は「深煎り」、つまり苦味があって酸味が少ないものです。

しかし初めてのお店で嬉々としてブラジルサントスを注文したら、出てきたのは全然ちがう、むしろ酸味の強いコーヒーだったりすることがあります。


もちろんこれはこれで良いですし、浅煎りの酸味のあるコーヒーの魅力については、また別の機会にじっくりと書きたいのですが、それでも「じわっと来る苦味」を期待しているところに「しゅっとした酸味」がくると、なんかソースを取ったつもりが醤油だったみたいな感じになるんですよね。うお! となります。


まあこういうのはどのコーヒーでもあるのですが、それでもたとえばキリマンジャロという豆のコーヒーを注文すれば「酸味の強いコーヒー」が出てきますし、それがマンデリンなら「苦味の強いコーヒー」になります。よほど個性的な味の店でないかぎり、逆になることはありません。


でもブラジルサントスは上記のように、店によってずいぶん味に違いがあります。どんなコーヒーがでてくるか分かったものじゃないといってもいいくらいです。


どうしたものか


いちばん簡単なのは、「ここのサントスは深煎りですか? 浅煎りですか?」と聞くことです。


しかし豆屋さんで豆を買っているのならともかく、喫茶店やカフェで、しかも初めてのお店でこんなことを聞くのは、なんだか「おれはコーヒーにくわしいよ」と言っているみたいです。バーでいきなり「ドライ・マティーニ」を注文して味をためしているみたいな感じ。おたがいちょっと構えてしまいそう。

べつに悪いことをしているわけではないので一向にかまわないのですが、僕はどちらかというとのんびり飲みたいですし、始めてのお店であまりごちゃごちゃとしたことを言うのは好きではないのです。適当なアルバイトの店員さんとかにこんなことを聞こうものなら、典型的な「めんどくさい客が来た」パターンです。もうちょっと気楽にいきたい。「バーの味はマティーニで分かる」とかはもうちょっと慣れたお店でやればいいのです。


結局一番シンプルな解決方法として「初めてのお店ではブレンドコーヒーを注文する」ということをしています。「ブレンドはお店の顔」なんて言われることがありますが、たしかにブレンドコーヒーを飲むとそのお店の味の傾向がよくわかります。


とはいえおいしいブラジルサントスはやっぱり魅力的なので、ブレンドを飲んで「これはいける」と思ったら、つぎはたいていサントスを注文することが多いです。自分の好みにぴったりあったサントスを飲むのはとても幸せな瞬間です。コーヒー1杯で幸せになれるなんて、ずいぶんお手軽な人生と思うこともありますが、べつにコーヒーにかぎらなくても、こういった「とてつもなく好きのもの」があるのはやっぱりいいものですね。

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